山本晋作のブログ

もうすぐアラサーになってしまう…

農業高校時代にマジのマジで死んだと思った体験

お題「これまで生きてきて「死ぬかと思った」瞬間はありますか?身体的なものでも精神的なものでも」

 

10年近く前のことです。

僕は畜産動物を飼育する農業高校に通っていました。僕の地元の埼玉県では農業高校はとても多かったのですが、畜産動物を扱う農業高校というのはめずらしかったです。そんな僕が畜産動物を扱う農業高校だからこそ体験した

「マジのマジで死んだと思った体験」

についてお話させていただきます。

 

僕の通っていた高校について説明させていただきますと、

一般的に多くの農業高校では野菜コース、食品コース、植物コース、動物コース、調理師コースのように様々なコースがあり、それぞれそのコースの専門的な知識が学ぶことができます。農業関連のコースの人たちは日々農業当番というのがあります(俗に「農番」とよばれ、以下そうよびます)。

農業科の植物コースや野菜コースの農番は花に水をあげたり植物採取や収穫などが主な作業でそこまで大変ではないと聞きました。

 

一方で僕たち動物コースの農番は、畜産動物たちの餌やりや小屋の糞尿等の掃除、搾乳や採卵(生まれた卵の収穫)など動物たちの世話をしたりと大変でした。初日の出を牛舎(牛の小屋)で見たり、ときには動物の出産に立ち会い、なかなか帰れないという日もありました。動物コースの農番は朝は早く夜は遅い、比較的遠くから通っていた僕は、農番の日は朝早くに登校して夜は遅くに帰る日々になります。(人によっては始発の毎日でした)

 

動物コースの農番は作業量の多さだけでなく作業自体も険しいもので、学校でも有名でした。

牛に蹴られたり足を踏まれたりとけがをする人も珍しくなく、中には骨折をする人もいました。その険しさから動物コースを断念して植物コースへ編入する人も多く、動物コースを専攻するには勇気や忍耐力が必要でした。

そんな過酷な動物コースを専攻する生徒たちは当時流行っていたアニメから「調査兵団」と呼ばれていました。(ちなみに当時坊主だった僕の友達のあだ名は「コニー」でした)

 

そんなときに僕はマジで死んだ思った体験をしました。

ある日、いつものように牛舎のパドック(牛や馬の入れてある檻の中)の掃除をしていると、三頭のホルスタインがこっちに向かって歩いてきます。

実は牛には21日に一回、発情期(交尾可能な生理状態になり、交尾を求める行動を起こす時期)がやって来ます。発情期の牛は乗駕(じょうが:交尾のために背後から乗りかかる行為)をしようとします。これは雄だろうと雌だろうと関係ありません。雄雌関係なく乗駕しようとしてきます。

 

(発情期の牛についてわかりやすく解説している動画がありましたので参考に)

https://www.youtube.com/watch?v=cmYgfwxqZJ0

 

掃除している僕にゆっくりと近づいてくる三頭のホルスタイン、僕は乗駕のことは聞いていましたが、まさか雌牛が、しかも人間に乗駕することはないだろうと思っていました。しかし念のためにと思い、すぐに掃除を終え小屋から早く出ようと駆け足でパドックの出口の方へと向かいました。これがいけなかったのだと思います。

 

振り返ると一頭の雌牛が僕をめがけて猛突進をし僕の目の前で前足を高くあげて乗駕しようとしてきました!

牛の体重は500~600キロ、最高時速は40キロといわれています。そんな立派な雌牛が僕をめがけて思いっきり突進し、のしかかろうとしてきたのです。目の前でバイクのウィーリーするような状態の牛、このような咄嗟のとき人は後ろに下がって避けるらしいですがその時僕の後ろは壁、横に逃げるにも反応が間に合わない、牛の前足が2メートルほど上がった。

r本能で動く動物に容赦や手加減といった倫理や道徳などありません。

 

「やばい… 死ぬ…」

 

心からそう思った。その一秒もない一瞬、やけにスローモーションに感じたのを今でも覚えています。両足が最高地点に達した瞬間、一瞬時が止まったようにも感じました。これが走馬灯というものなのかもしれません。

そして振りかざされた瞬間…!!

 

(ダンッ!!)

 

「…」

 

僕は体を背後の壁に限界まで張り付けていたおかげで、奇跡的に牛の両前足は僕の目の前に振り下ろされました。牛の頭は僕の体を添うように大きく振り降ろされ、前足が着地した瞬間、石に石をたたきつけたような大きい音がしました。一瞬、牛が驚いたのかキョトンとしてる隙に僕は急いで逃げました!走ってはいけないことなどすでに考えている暇はなく本当に全力で。

マジでパドックに入るのは一生トラウマになるのだろうと思いました。

 

当番が終わり先生にその日の動物たちの様子や変化などを報告をします。その時先生に牛から乗駕されそうになり死にかけたことを伝えると、

「それはお前が発情してるんだよ!ハハッ(笑)!」と軽く笑われました。

あわや大事故だったというのにずいぶん落ち着いたものです。

フザケンナコラと内心思いましたが、たしかに教師の方からすれば日常茶飯事のことなのかもしれません。改めて農業というものの恐ろしさを知ります。

 

 

農業、林業、漁業、一次産業と呼ばれるこれらの職業は本当に物理的な意味で命を落とす危険があります。これらの職業からは毎年、数百~数千の人が不慮の事故で無くなっています。機械に巻き込まれたり、船から落ちたり、倒れた木の下敷きになったり…。

本当に農家の人というのはすごいなと思います。農家の人たちには休日というものはなく、仕事をさぼっていい日も当然ありません。旅行などなかなか行けない。それは酪農家も野菜農家も一緒(余談ですが農家の人というのはお金持ちが多く、年収何千万という人も多く、みんな立派な家も持っています、その意味でも尊敬)。

 

僕たちが普段何気なく食している食事の原点にこうした農家の人たちの死と隣り合わせの苦労があるのだなと改めて実感した貴重な経験となりました。